僕は中学3年で不登校になり、高校も1年生の夏休みまでしか通っていないため人よりも学生時代が短い。なので学生時代の友人はとても貴重だ。しかし2人いた中学からの友人の1人とは36歳の頃に関係を絶った。もう1人の友人とは現在も続いている。
友人
出会ってからの友人と僕とのこれまでの人生を表にしてみた。あまりにも違う人生を歩んで来ているが、なぜか友人関係が続いている。2019年でちょうど30年だ。
友人 | 僕 | |
家庭環境 | 両親がいる、ごく普通の家庭で育つ。 | 小学5年生で両親が離婚。シングルマザーの家庭で育つ。 |
中学時代 | 塾にも通い真面目に勉強。 | 塾をやめて中学2年の冬から不登校。 |
高校時代 | 街で一番の学校に合格。勉強を続ける。 | 高校1年で学校をやめてニート。時々食品工場などでアルバイトをする。 |
大学時代 | 地元を離れて学生生活を謳歌。 | 地元に残り農家の手伝いや道路警備のアルバイトをする。 |
20代 | IT企業に就職。数回の転職を経て29歳にして年収900万。 | 20代半ばにやっと親元を離れ自立。飲食店でアルバイトをする。 |
30歳時点 | 1年間にマンション、車、大型テレビを購入し結婚。 | コールセンターの契約社員。年収160万。クリスマスに彼女が他の男と浮気。フラれる。 |
30代 | 2人の子供が生まれ幸せな日々。 | IT業界で働き出す。 |
41歳 | 奥さんと子供に囲まれ人生を楽しむ。 | 年収1,000万になり、年に数回の海外旅行に出かける。いまだに独身。 |
こうして見ると、"よくぞ今まで友達でいてくれたな"とビックリする。「進学」「引越し」「結婚」「昇進」「年収」などを機に友人関係が終わってしまう事も多いと思う。
だが僕達には当てはまらなかったらしい。
ちなみにIT業界に入ったのは彼の影響だ。
白木屋コピペの続き?
昔、白木屋コピペというネットで有名な文章があった。要約すると、
"友人同士である2人の男。Aが学生の時にBは既にフリーターとして働いていたのでBの方がお金を持っていた。しかし10年後。Aは大学を出て正社員として働いていたので年々収入が上がっていたが、Bは変わらずフリーターだった。2人の間には大きな差が生まれていた。"という話だ。
これはまるで友人と僕のようだ。高校時代は僕がアルバイトをしている時もあったので僕がおごったりしていた。20代になると、僕の方が圧倒的に貧乏だったし『高校の時にたくさんご馳走してもらったから』と彼におごられまくった。白木屋コピペならここで終わりだが、僕達には続きがあった。
現在。2人で会う時は「独身税。独身税。」と言いながら彼にご馳走している。友人の子供達にお年玉を渡すのも楽しみだ。
お返しとばかりに家へ泊まりに行くとお金を出させてくれない。もう、どちらがどれだけ出したとか気にしていない。出したい方が出せばいい。そんな関係だ。
そんな友人と、1年前に印象深い出来事があった。
事件発生
ある時、地元に戻り彼の家族と休日を過ごした。東京へ帰る日になり、空港に行く前に僕と友人は駅で昼食を食べる事にした。食事が終わり、そろそろ空港へ向かおうと改札へ行ったところ、空港への全ての電車が停止していた。確かに、天候的な理由により飛行機や電車が遅延・運休しやすい時期ではあったが、それらとは全く関係なく"人身事故"が原因によるものだった。思わず「東京かよ!」と頭の中でツッこんだ。
空港までは電車で40分くらい。飛行機の時間まではあと1時間半くらいあるので、通常であれば十分に間に合う時間だが、電車はすぐには運行再開されないようで、何時間後になるのか分からない状態だった。
こんな時の一枚
実はこの時、僕はアメックスプラチナを手に入れたばかりだった。ディナーが1人分無料になったり、ホテル上級会員資格や保険も充実している。正にこういう時に使えるのではないか?(※)と手に入れたばかりのオモチャで遊びたい子供のようにワクワクした。
いや待てよ。友人の家にもう1日泊まらせてもらって子供達とゲームで遊んだりするのもいいかもしれない。そして空港への電車の運行再開を待てばいいのだ。万が一、飛行機は新たに買い直さなければならないとしたら高くつくが、日本にいて、スマートフォンもあって、現金もあって、クレジットカードもあって、友人と一緒にいるのだ。市内のホテルに泊まる事も出来るし、"何も問題は無いな"とノンビリ構えていた。
※補償規定によると国際線の遅延は保険対象となりますが、国内線は対象外です。また、国際線の場合においても飛行機の遅延は保険対象ですが、空港への電車の遅延・運行停止は保険対象外だと思われます。
ゾーン展開。
『おそらく空港バスやタクシーは行列になっているだろうな、、、』と友人がつぶやいた。
電光掲示板を見上げながら「これは東京に帰るなという神のお告げかな?」と僕がおどけて言うと、友人は真剣な顔で『少し黙ってろ』と僕に言った。
僕と友人は互いに"苗字+くん"付けで呼び合う仲だ。普段の言葉遣いはわりと丁寧な方だが、そんな彼が僕に"黙ってろ"と命令口調で言った。僕はなおさらワクワクした。
計算プロセス開始します。
彼は頭の中で空港までの所要時間を計算しているようだった。
『今から電車で家に戻り車を出すのに20分、高速に乗って空港まで40分。十分間に合うな。よし、空港まで送るからすぐに家に向かおう。』と彼は言った。「んじゃ行こうか」と僕は彼のあとを追いかけた。
電車の中でつり革に掴まりながら彼と話した。
「結構ギリギリじゃない?そんなハリウッド映画ばりの大活躍をしなくても電車が動くまで待てばいいんじゃないかな?」と僕が言うと、彼はスマートフォンで自宅から空港までの所要時間を調べ、
『無理をせず法定速度で走っても空港には出発時間の"10分前"に着く。大丈夫だ。』と言った。
10分前か。そう、10分前ね。
エンジン始動、発進。
友人の自宅がある最寄駅へ到着し、足早に歩く彼の後ろを僕はノロノロと追いかけた。家に戻ると奥さんと子供達が車のキーを持ってマンションの玄関まで出て来てくれていた。挨拶もそこそこに鍵を受け取って車に乗り込むと空港へ向かって出発した。
友人はいつもよりも運転に集中しているようだ。口数は少ない。
高速に乗るとタクシーが目についた。彼らも空港に向かっているのだろうか。
さらに問題発生。
『くそ、ガソリン入れておけば良かった。』と彼が言った。メーターを見るとランプが点灯している。「これは困ったね」とあんまり困っていなさそうに僕が言うと、
『大丈夫。空港へ送って家の近くのスタンドに戻るまで十分持つ。前に同じくらいの距離を走った事がある。』と彼は言った。
時間との戦い。さらにガソリンとの戦いだ。
ドキドキハラハラ目が離せない展開になってきた。
映画か、映画なのか?
数十分して空港に到着した。出発時間の25分前。ハリウッド映画ばりの大活躍だった。
僕は感謝してガソリン代として5千円を出そうとした。タクシーだったらもっと料金はかかっただろうし、飛行機に乗れず新たにチケットを買った場合も5千円ではすまないだろう。
僕にとってはほんの気持ちのつもりだったのだが、
『いや、そういうのいいから。』と彼は受け取らなかった。
やっぱりか。
断られないように助手席の下に隠しておいて、後でLINEで知らせるという手もあったのだが、友人にはカッコつけさせておく事にした。お返しに"色々な人にこの日の活躍を言いふらしてやる"と頭の中で誓った。
「ありがとう」と告げて僕は車を降りた。
空港ビルへ向かって歩きながら、走り去る彼に手を振った。
お仲間発見
チェックインカウンターで手続きを済ませて検査場へ向かうと、近くで男性が電話をしていた。
『、、、そうそう。大変でさー。バスはすごい行列で乗れそうにないし、周りの人に声をかけて空港に向かう人が運良く見つかって一緒にタクシーに乗って来たんだよねー。』
どうやらこの人も駅から空港までタクシーで来たようだ。バスは友人の予想通り行列になっていたらしい。ニュースでもこの日の騒ぎを放送していた。
機内にて
検査を終えて搭乗口へ向かい、ゲートが開くと機内に移動した。離陸して上空で雲の海を眺めながら僕は今日の出来事を思い返していた。
"アメックスプラチナで補償がどうこうと考えていたけど、そんな必要無かった。彼が無償で僕を助けてくれた。すごく今更だけど僕は彼の友達なんだな。そうか。僕にも友達がいたんだな。友達ってすごいな。"
そんな事を考えていたら、気持ちが溢れた。
本物の輝き
彼は全く悪くないのだが、この日の一件で僕が思う"友人"という定義のハードルがかなり上がってしまった。
良いものは2つも3つも要らない。一番最高のものを1つ持てば十分だ。
「そう、人生には、彼がいる。」