2018年 41歳 フリーランスSE 年収1,060万円。
自社側と顧客側の人気者が抜けた。自社には手のかかるリーダー、顧客側には老害社員が入った。
老害社員のこだわり
老害社員は仕事を進めるのではなく、遅らせたり、止めたり、元に戻すのが得意だった。作業計画を話し合う時でも、通常の作業スケジュールにはほとんど興味を持たず、トラブル発生時の復旧スケジュール(コンティンジェンシープラン)に異常なこだわりを持っていた。
メンバー『xxxを変更して、確認を行います。』
老害社員「xxxが変更出来なかったらどうするの?xxxを変更したあとで確認がNGだった場合は?何時まで調査して何時に諦めるの?」
といった具合で、悪魔の証明とも言えるような理不尽な質問をして僕らを困らせた。
おかげでメンバーは老害社員の重箱の隅をつつくような嫌味ったらしい指摘に備えて、通常スケジュールの3倍もの時間をかけて復旧スケジュールを作成していた。
全てに備える事は不可能
老害社員の指摘を旅行に例えるならば、
『xxx飛行機に乗って現地へ向かい、xxxホテルに泊まります。』
「台風が来たらどうするの?xxx飛行機がストライキを起こしたら?xxxホテルがテロに遭ったらどうするの?財布をスラれたら?」
と指摘をされているようなものだ。
実際にトラブルが発生したならその時の状況に合わせた対処が必要となるし、全てのパターンを予測出来る訳ではないので考えるだけ時間の無駄だと思うが老害社員にとってはその"まさかの事態"について考えるのが何より楽しいようだった。
住宅ローンを組んで自宅を購入する場合でも「リストラされたら」「火事になったら」「離婚したら」「子供が死んだら」と負のパターンばかり考える人がいるだろうか。
これは顧客側という立場を利用しての完全なパワハラだ。相手を困らせて優越感に浸る。仕事ではない普段の生活だったなら、そんな人間に一切関わる事は無いだろう。
トラブル頻発
老害社員のせいで復旧スケジュールばかりみんなが気にするので、肝心の通常スケジュールの確認や準備がおろそかになってトラブルが頻発した。
こちらも旅行に例えると、
代替の飛行機やホテルは用意していたが、メインで使うxxx飛行機の予約が1日間違っていたり、ホテルをツインで予約したつもりがシングルになっていたり、そもそもパスポート期限の確認を忘れていたというような状態だ。
余計なところにばかり時間を使っているのだ。至極当然だろう。
メリット
現場のエンジニアはみんなこの老害社員を嫌っていたが、SESという契約形態から考えるとむしろありがたい存在だった。復旧スケジュールの作成や準備に時間を割く必要があるため、自社側では『今の人数では足りません』と言ってどんどんエンジニアを補充した。
本来ならエンジニア1人で済むところを
- 自社側エンジニア2人を補充、その給料
- 仕事を増やすだけの顧客側老害社員の給料
が毎月垂れ流しだった。
顧客企業の経営者から見ると、真っ先に老害社員をリストラするべきだろう。
リサイタル
老害社員は打合せでも1人でずっと喋っているため打合せの意味が無く、それなら
事前にメールで資料を送っておくから勝手に見ておいてくれと思うのだが、老害社員は打合せが大好きだった。
この人にとっての打ち合わせとは
「見て見て!俺ってすごいでしょ!物知りでしょ!」という事をひけらかす場であり、正にオンステージ・リサイタルなのだ。10人、20人のエンジニアが集まる打合せで1人だけがずっと喋っている事がどれほど無駄な事なのか全く分かっていないようだった。
俺は王様
老害社員は人の話を遮るのが得意だった。相手の名前を呼ばず、「xxxさん、この件なんだけどさぁー」と会社名で相手を呼んだ。自己啓発本やサービス業などでも名前を呼ぶ事の大切さが説明されていると思うが、老害社員のやり方は真逆だった。
メンバーが資料を説明していても、出来るだけ立場が上の人間としか話そうとしなかった。リーダーがいればリーダー。マネージャーがいるならマネージャーとしか会話しなかった。メンバーは無視だ。
平民とは会話出来ないと考えているのかもしれない。老害社員は人に嫌われる天才だった。
プライド
老害社員は"金を払っているのはこちらだ"とばかりに僕らエンジニアには敬語を一切使わなかった。
「これ調べた?ちゃんとやったの?」
「これだけ品質が悪いなら、"然るべきところ"に次の契約について考えるように話をしなければいけないねー」
と脅しだか何だかよく分からない事も言っていた。つまり、この老害社員は50代にもなって”悪い事をしたら先生に言いつけるぞ"と言っているのだ。
滑稽な事にこの老害社員は一切の役職などを持たない平社員だった。同期の人間は他社へ引き抜かれたり昇進したりして、この人だけが取り残されたのかもしれない。
そんな自分のプライドを保つために、顧客という有利な立場を利用して踏ん反りかえっているのだと思う。だが、周りが老害社員を尊敬する事は無く、勘違いしたアピールを繰り返して周りが迷惑し、彼を疎ましく感じさせた。
仲間割れ
老害社員が原因だと思うが顧客担当者同士も仲が悪かった。打合せでは隣には座らず、間に椅子を1つか2つ空けて座っていた。メールなどで横の連携もされないようで、誰かが休みの日に打合せで決まった事が本人に伝わっておらず、「俺抜きで勝手に話を進めるな」と言われたりして非常に仕事がやりづらかった。
ある日、僕が耐えかねて老害社員と言い争いのようになった時に、顧客側担当者の1人が味方をしてくれた。本来なら老害社員と同じ会社で仲間同士のはずだが、日頃から溜まっているストレスがあったのだと思う。
気が付くとその担当者と老害社員が言い争っていた。
関西弁
老害社員は関西弁だった。他の地方の出身者が東京に出てくると方言を直して標準語を話すようになる事がほとんどだと思うが、関西出身者は関西弁のままでいる事が多いように思う。
つまり、"俺は俺。周りに合わせる必要は無い"と思っているのかもしれない。
それが良い方向に働けばいいのだが、あまりにも自己中心的な態度の老害社員の話をずーっと聞き続けたため、関西出身者に対する僕の印象はとても悪くなった。
もちろん話す言葉と人柄は無関係であり、良い人もたくさんいるとは思うのだが、この老害社員のせいで"人の話を聞かず、自分が目立てればそれでいい。とても迷惑な人達"という印象が出来上がり、プライベートでも関西弁を聞くのが嫌になった。
入院
そんな状況が続き、自社側プロパーの統括社員がある日入院してしまった。年齢もあるとは思うが完全にストレスが原因だ。いつも目は充血していたし、昼休みもまともに取れずPCを触りながらオニギリを食べていた。残業が続く状況で老害社員の理不尽な要求を聞き続けていたら誰でもおかしくなるだろう。
数か月して統括社員は無事に退院してきて元気な姿を見せてくれたが、もしも"何か"あった時は老害社員と顧客側企業は統括社員の家族から訴訟を起こされていたかもしれない。
退場を決意
身内側には頼りないリーダー。顧客側では仲間割れ。勘違いしたパワハラ老人に嫌がらせを受ける日々を過ごした僕はストレスのせいなのか寝付きが悪くなり、夜中に何度も目が覚めた。
身体に変調をきたして貴重な人生をつまらない人達によるストレスで塗りつぶされるのが嫌だったので現場を抜ける事を決意した。
しかし、僕よりも先に頼りないリーダーが抜ける事になった。送別会は開かれなかった。
突然の連絡
ある日この現場を紹介してくれた人から連絡があった。どこから聞きつけたのかと思うほどタイムリーな連絡だった。久しぶりに会うと元気そうだった。次の案件を探してもらう事になった。
待ちわびた退場
本当はすぐにでも抜けたかったが、打合せでは発言を控えたり、最初から打合せに参加しないようにして老害社員を避けた。僕はとても楽になったが、代わりに違うメンバーが苦しんだ。(このメンバーも僕が抜けて3か月後に抜けた)
他にも抜ける人が何人かいたので合同送別会が開かれたが丁重にお断りした。仲の良かった数人のメンバーとは個人的にランチを食べたり、軽く飲みに行ったりした。
数か月が過ぎてやっと現場を抜ける日が来た。清々しい気持ちでビルを出た。次は良い現場である事を願う。
有害な人は避けよう。